なかない子のための
ヴァルトルスはたまに、なにか言いたげな眼差しのまま、無言でゴッドフリーに触れてくるときがある。触れることを厭う友人が唯一触れてくるこの瞬間が、ゴッドフリーには苦痛だった。触れられることは好きだ。あたたかなものは、好きだ。―けれど、けれども。ヴァルトルスが触れてくるとき、彼はいつだって辛そうで。無表情の中、その美しい瞳だけが泣きそうに見える、なんて、きっと本人に言ったら鼻で笑われてしまうんだろうけど。なにかを言いかけて、止めて、無言になって顔を伏せるヴァルトルスに、どうしたんだ、とも、なにかあったのか、とも、言いたいことがあるのか、とも、言えなかった。どこまで踏み込んでよいのか悩んで、結局吐息だけの苦笑に終わってしまう。伏せてしまったヴァルトルスの、その柔らかな髪を撫でてあげたくて―けれど触れられることを嫌悪している彼に触れることなどできなくて、指先だけがかすかに動く。
ヴァルトルスが何を気にして、何を言いたいのか、全く考えが及ばず、ゴッドフリーにできることといえば、俯いているヴァルトルスを柔らかに見つめることぐらいだ。
(泣いてしまえばいいのに、と思っていることを知られたら、きっと怒られるだろうなぁ)
私が泣くわけないだろうこの腑抜け、と、眦を釣り上げるヴァルトルスが安易に想像できて、ゴッドフリーは口元を緩めた。
ヴァルトルスは泣きはしない。けれどもたまに、なにか言いたげにゴッドフリーに触れてくるときがある。その瞬間が、ゴッドフリーには苦痛で、けれど、確かに幸せだった。触れ合いの一切を拒絶する彼が触れてくることが、甘えられているようで。
(僕はお前の友として、甘えられる存在になれているのだろうか)
そうなれていればいい、と、ゴッドフリーは微笑んだ。数多の神に見下される中、不器用なやさしさを注いでくれる愛しい友の力に少しでもなれていれば、それはとてもうれしいことだ。
頬を包んでいるゴッドフリーより少しだけ小さな手のひらが、時折手慰みのように頬をつまむ。その手を取って、なにかあったのか、と聞くことは簡単だ。けれどそんなことをすれば、触れられることを厭うているヴァルトルスに手を振り払われ、なんでもないと言われるに違いなかった。
泣いてしまいそうな瞳の泣かないヴァルトルスを、ゴッドフリーは無言で受け入れることしかできない。未だ沈黙したままのヴァルトルスのつむじをぼんやりと眺めながら、ゴッドフリーは震える指先がどうかヴァルトルスに気づかれませんように、と、願った。触れたくて、触れられなくて。こんなことを考えていると気づかれて、軽蔑されたらと震えてしまう指を。
(…拒絶されたくないし、軽蔑もされたくないし、お前を失いたくもないんだ)
だからきっと、境界線を探している。どこまで踏み込んで大丈夫なのか―泣きそうな理由を聞いていいのか。喪失の恐怖から無言を貫くままの己が情けなくて、けれど勇気など持てなかった。
ゴッドフリーにできることなど。
なかないヴァルトルスのための沈黙と、喪失の恐怖に震えてなけない己のための、無言だけだ。