体感温度は37度

「ゴッドフリー」
「はい」
「…ゴッドフリー」
「………はい」
「私が何を言いたいか、わかるか」
「………、………、き、きたない…?」
「そうだな?その通りだ。いいかよく聞け。別に貴様の飼い竜と戯れるなとは言わん。存分に愛でればいい。だがな、ゴッドフリー」
「ハイ」
「誰も泥まみれになれと言った覚えはない」
「ごめん……」
 しおしおと頭を垂れる、文字通り泥まみれになって風呂にぶち込まれたゴッドフリーに、ヴァルトルスは呆れたような眼差しを向けた。ゴッドフリー曰く、竜と遊んでいたら転んでしまって汚れたから、いっそ泥あそびをしようと思った、らしい。例えばそれを話として聞いただけならヴァルトルスとて口うるさく注意などしないが、泥まみれになったゴッドフリーとばったり出会ってしまったのなら話は別だ。腕を組んでゴッドフリーを睨むように見上げてくるヴァルトルスに、ゴッドフリーは申し訳なさそうに眉を下げた。ヴァルトルスが生粋の潔癖症なことを知らないわけがなく、そんな綺麗好き…という言葉では抑えられない綺麗好きな友人の前に泥まみれで居たら風呂へ連行されて叱られるのは当然のことだ。すっかり泥の落ちた髪をタオルで乱雑に拭けば、綺麗好きな上に几帳面なヴァルトルスが嫌そうに顔を歪める。ゴッドフリーが誤魔化すように笑って後退れば、瞳を細めたヴァルトルスがそれに追随するように一歩足を踏み出した。
「きちんと拭けといつも言っているだろう」
「あ、ああ、いや、うん、そんなに気にしないでいいかなって……」
「阿呆。泥が残っているかわからんだろうが。貸せ」
 ゴッドフリーからタオルを奪い取ったヴァルトルスが、ひどく柔らかい手つきでゴッドフリーの髪を拭く。さわさわと動く髪も、時折触れる指先も。心地よいようなくすぐったいようなむず痒い気持ちになって、ゴッドフリーは緩みそうな口角を必死に耐えた。
 …耐えたのだが、正面にいるヴァルトルスにはバレバレだった。
「きっさま…私がわざわざ拭いてやっているのに何を笑っている…!」
「!?いたいいたい!髪引っ張らないでいたい!ごめん!ごめんってば!くすぐったかったんだよ!」
「それだけではないだろう?何年の付き合いだと思っている?誤魔化すのか?」
 遠慮もなく長めの襟足部分の髪を引っ張ってくるヴァルトルスに、ゴッドフリーは何度か言葉に詰まったあと、さあ吐けと言わんばかりのヴァルトルスにだけ聞こえるような小さな声で言いよどんだ。
「……その」
「なんだ」
「………ええと」
「………」
「………あの」
「………」
「いっ!?いたいごめん!ヴァルトルスが髪拭いてくれるからすごくうれしかったんです!それだけです!いたいよヴァルトルスッ!………?」
 ピタリ、と、引っ張ることをやめたヴァルトルスに視線をやろうとして、ゴッドフリーの視界は真っ白なタオルに覆われた。驚きの声をあげる前にタオルの上から乱暴に髪を乱されてゴッドフリーの頭が思わず下がる。痛くはないが強い力で拭かれる合間に、タオルの隙間から見えたヴァルトルスの目元が赤らんでいて。
 今度こそゴッドフリーは、緩む口元を我慢できなかった。